健康・快適・省エネの備え/パッシブデザイン

私が「住まいの設計の健康に対する大切さ」に気づかされたのが1990年代中頃のシックハウス問題でした。

「自分がつくる家に住んで病気になる人をつくる可能性がある」

学べば学ぶほど恐怖心を覚えました。
同時に「しっかりと考え、家をつくることで、そこに住む人の健康を守ることができる」という、設計者としての社会的な役割の重要性を自覚したのです。以来、私どもの建物づくりは全棟”健康”が大きな指針となっています。

1.健康の備え

こちらでは、トス設計が大事にしている健康・快適・省エネの備えの側面から解説をしていきます。

前述のシックハウスを避ける基本は「素材を吟味する」「湿気対策=カビやダニのアレルギーの元をつくらない」ということに尽きます。

とくに「室内に使う材料」については、慎重な姿勢が必要です。化学物資に関する基本的な知識を持ちながら、室内に使う材料についての情報を集め、「より安全性が高いと考えられるもの」つまり室内に有毒な揮発性物質を出さない材料を選ぶようにしています。

「より安全性が高いもの」を大雑把に言えば自然素材になります。
ただ、「自然素材がすべて安全」というのは科学的に間違った認識なので、自然素材を中心に選びながらも、その内容をしっかりと確認しています。

現在は以前ほどシックハウス問題は少なくなりましたが完全になくなったわけではありません。
また家づくりの気密化が進めば進むほど換気と共に素材選びは慎重になる必要があります。

また、住まいに関連した「健康」は化学物質のことだけではありません。
カビやダニはアレルギーに深く関わってきます。その対策は断熱性・気密性を高め結露を防ぎカビを発生させないひいてはダニを抑えることをとても大事に意識して行ってまいりました。当時も通気止め等も行ってまいりました。まさに現在のパッシブの手法そのものでした。ただ当時は他と比べると性能は高いものでしたが現在の性能基準と比べると低いものでした。家中の温度が一定というものではありませんでした。

さらに、家の中の温度差は「ヒートショック」という大きな問題を引き起こします。

2019年、年間17000人の人がヒートショックが原因で家の中で亡くなられています。2019年の交通事故死者は3300人ですのでこの大きさがご理解できると思います。

ヒートショックはリビングや寝室等の暖かい居室から寒い浴室やトイレに行った時。その室温の違いが身体に負担をかけ大きな原因になります。

対策は家の中がどの部屋もできるだけ同じあたたかな室温に保つこと。

それには高いレベルで断熱性と気密性を高める必要があります。

2.快適の備え:温熱環境

住まいに関する「快適」には、非常に様々な視点、とらえ方があります。おそらくそれは、五感で感じる「快適感/不快感の要素」を考えるのがわかりやすいでしょう。ただし、味覚は関係がないので除きます。

  • 目・・・色、空間認識、素材感、光など
  • 耳・・・外部からの音、家の内部にある音
  • 鼻・・・調理の臭い、建材の臭い、カビの臭い、外部からの臭い
  • 皮膚・・・手触り、足触り、温度(熱)、湿度(湿気)

住まいを設計するという作業は、この4つの感覚について「いかに快適に向かうのか?」を考えていくという見方もできます。

実際、私にもそういうイメージが常にあります。

さて、このように実に幅の広い「快適」ですが、ここで述べていくのは「皮膚」で感じる「温度(熱)」と「湿度(湿気)」についての快適性です。

これを専門的には「温熱的快適性」と呼んだりします。この言葉は、最近では少しずつ見かけるようになった「温熱環境」という言葉と重なります。

温熱環境とは、温度(熱)と湿度(湿気)についての環境を示すもの

私が備えるのは「冬、暖かい住まい」「夏、涼しい住まい」です。これも当たり前な話ですが、「どこまでしっかり実現させるか?」というところが重要です。

冬、暖かい住まい

何より重要になるのが「断熱」です。断熱性を高めることによって次のような状況が生まれ、「暖かい」となるわけです。

  1. 暖房している部屋の空気が均一に暖かくなる
  2. 床、壁、天井の表面温度が高くなるので、体感温度が増す
  3. 暖房している部屋と暖房していない部屋の温度差が小さくなる
  4. 昼間に得た日射熱が逃げにくく、夕方以降の温度低下が小さくなる
  5. 暖房で得た熱が逃げにくく、朝方でも室温が大きく下がらない

トス設計がつくる家では平成11年に「次世代省エネルギー基準」が制定されそれを実施したのがスタートでした。以来その断熱性能を都度より高めることに努め現在は更に高い断熱性能と気密性能を目指しつつあります。

ただこうした基準や断熱材の種類や厚みなども大事ですが、本当に大切なのは「実際にどんな温度になっているかを確かめること」と「住まい手が満足しているかをきちんと確認すること」だとも思っています。

そしてうれしいことに、今までのほとんどの住まい手が「暖かくて気持ちいい」と言ってくれます。

断熱性を高めて「暖かさ」をつくると、それは同時に「暖房エネルギーを少なくする家の備え」ができたことになります。私は省エネルギーについても強い関心があり、断熱性を高める大きな意味のひとつとして「省エネ」をとらえています。

ただ、断熱性を高めることには、少しだけ「注意点」があります。それは「ヘタをすれば夏が暑くなる」「内部結露のリスクが高まる」ということです。

私が取り組んでいるのが「パッシブデザイン」です。

パッシブデザインとは太陽の光や風といった、自然の力を活用しまた建物の作り方を工夫し”自然の法則”を生かしできるだけ電力に頼らず心地よい家をつくること。前述の断熱性能・気密性能を高いレベルで高めることは必須です。

窓から日射熱を取り込み、その熱を床などに蓄えておいて夕方以降の暖房に使う。設計のあり方によって、自然のエネルギーをうまく暖房に使えることがとてもおもしろく(もちろん省エネになります)、すごく素敵な方法なので積極的に取り組んでいこうと考えているわけです。

夏、涼しい住まい

「日射を遮る(日射遮蔽)」と「風を通す」がポイントになります。「風を通す」については以下をご覧ください。

日射遮蔽は「夏、涼しい住まい」をつくるときのもっとも大切な備えになります。

「夏、涼しい」と聞くと「風通し」と思う人が多いでしょうが、実は日射遮蔽の方がより基本です。

夏の暑さの「元」は太陽の日射熱なので、いかにそれを家の中に入れないかを考えないといけないわけです。その日射熱のほとんどは「窓」から入ってきます(「屋根を通って」というのもソコソコありますが)。

だから、そこを中心に日射遮蔽対策を考えていくことになります。具体的には、次の工夫が効果的です。

  • 窓のすぐ外に日射遮蔽部材を設ける(軒、庇、すだれ、シャッターなど)
  • 植物をうまく利用する(落葉広葉樹を植える、緑のカーテンを育てるなど)

とくに設計的には「軒、庇、シャッター、庭の作り方」などがポイントになるので、日射遮蔽のことをしっかり考えながら、こうした備えを設けます。

また、日射遮蔽は住まい方がとても重要なので、そのアドバイスをすることも私の中では”設計上の大切な備え”という位置づけにしています。

日本の夏が年々、暑くなっていることを踏まえてもできるだけ省エネで夏を快適に過ごすためにはこの日射遮蔽対策が非常に有効です。

軒や庇のないデザイン優先の住宅ではなく、数十年先まできちんと計算された合理的な住まいをご提案します。

健康・快適・省エネの備え まとめ

健康的な家で、快適さを両立させるのが、温熱環境への考慮です。私たちがパッシブデザインにこだわりを持っているのは、健康・快適・省エネの備えとしての答えの1つがパッシブハウスだからです。

パッシブデザインについては、ぜひ以下もご覧ください。

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